【旅行記】魂の駅

野宿旅の途中、北海道の苫小牧駅から東へ歩いた。



真直ぐ一直線に伸びる道路を何度か折れ、3時間以上歩いた先に、「勇払駅」はあった。

「ゆうふつ」という苫小牧駅から東にたったひと駅の場所だったけれど、周囲に商店など一切なく、古びた団地と工場がいくつかあるのみで、歩いてきた苫小牧の市街地とはあまりに落差があった。

コンクリート製の駅舎は周囲を砂利で囲まれ、泥水のたまりがあり、建物自体は「打ち捨てられた」という言葉がまさにあてはまるように思われた。

駅の名前が書かれていて、線路脇に小さなホームがなかったら、これが駅だとはとても思えなかった。

扉を開けて中に入ると思ったより広く、いくつかのベンチがあり、壁には時刻表が掲示されていた。けれど天井には蜘蛛の巣がはり、窓の木枠は劣化していて、床もほこりっぽく、電灯は頼りなかった。思わずそこに入るのをためらうような様子だった。

とりあえずベンチのひとつに座って電車を待っていると、なんだか徐々に不安になっていった。ほかに誰も入ってこなかった。「ここで待つべきではない」と誰かに警告されている気がした。何かの罠なんじゃないかとも感じた。

付近には整備された大きな公園があり、ジャージを着た多くの学生がサッカーをしていた。

周囲は工業団地のようなので人もそれなりにいるのだろう。けれど勇払駅は住民から頻繁に利用され、温かく愛されている駅だとは一切思えなかった。

たまたまそこに使えそうな廃屋があり、とりあえずそれに名前をつけ、「待ちたかったらここで待て」という具合に仕方なく出来上がった、そんなことを思わずにはいられなかった。

私は勇払駅に同情した。そしてこの駅は自分だと思った。映画『ニンフォマニアック』のジョー(シャルロット・ゲンズブール)が山上で出会った木、長年の風雪で痛めつけられ不自然に伸び弱りはてたのであろうその木を、自らの「魂の木」としたのと同じように。

自分の魂はここにある、この駅と共にあると思った。

・・・

静内から襟裳岬までの100km近くを歩く道中、そしてたどり着いた先で雨に打たれ、バスもなく、泊まるところもない、知る人もいない、痛む足を抱えて絶望したとき。

先に出会ったその駅は、深いところで私を励ましてくれた。

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(勇払駅:こちらより転載) 

おしまい。

 

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