伐倒時につくる追い口の高さ。
通常は「受け口の2/3くらいの高さ」という目安があります。
けれど場合によっては「可能な限り低くする」、もっといえば「会合線と同じ高さにする」としたほうが良いことがあります。
なぜか?
意図せずツルが薄くなったケース
僕が経験した中で、伐倒したあとにツルを確認すると「こんなに薄くつくったっけ?」ということがたまにありました。
↓3cmくらい残したつもりが、裂けてみるとその半分くらいに…。
どんな場合かというと、根本が大きく曲がっているところに受け口・追い口をつくったとき。
しっかり幅を残していたにも関わらず、です。
薄くなってちぎれたツルを見ると、縦方向の裂けが、真下にではなく斜めに裂けていました。
年輪の影響を受けることがある
もしや年輪に沿ってめくれるように裂けたのか…?
ツルを見たあとにゴニョゴニョ考えて調べていると、「林業の安全作業情報」というウェブサイトにドンピシャの資料がありました。
図を引用します。
※図は林業の安全作業情報ー伐倒技術より引用させて頂きました。とてもわかりやすい。
図解によれば、年輪の影響を受けないためには「追い口の高さを低くする」のが有効とのこと。
これにより
- ツルの幅を目視しやすい
- 年輪の影響を避けられる
というメリットが生まれます。
北欧式の伐倒方法(オープンフェースノッチという名称)だと、会合線(または受け口下切り)と追い口を同じ高さにするのは知っていました。
が、その理由について深く考えたことはなく、初めて知りました。
追い口を下げるのはリスクもある
追い口を下げた場合、以下のリスクが考えられます。
ツルの抵抗が弱まる
追い口の高さを確保した場合と比べると、倒れていくときのツルの抵抗は弱まります。
理由は単純で、縦に裂ける部分が少ないから。
倒れていくスピードを抑えたい場合には不向きだと思います。
失敗すると、会合線より下につくってしまう
この失敗は危険です。
追い口を会合線より下につくってしまうと、ツルがうまく機能せず、追い口側から縦に裂け上がる可能性があります。いわゆる「バーバーチェア」という現象。
これを避けるためには、確実に前ヅルをつくれる「追いヅル切り」が有効です。
最初に行うのが突っ込み切りなら、より会合線に近いところから追い口をつくり始めることができます。
まとめ:根曲がりの木には低めがいい
伐倒でいちばん重要なのはツルなので、これが上手くつくれないと非常に危険。
「幅が薄すぎてツルがちぎれた…」では取り返しがつかないシビアな伐倒場面もあります。
根本が大きく曲がって繊維方向が読めない場合、追い口を低くするのはとても有効です。
また「絶対にこちらにしか倒せない」場合は、幅を厚めにつくってから徐々にツルを弱めていくくらいがちょうどいいと思います。
その場合でも、確実にツル幅をだすために低くするのは有効だと考えます。
・・・
以上、追い口の高さについてでした。
ほんと伐倒は奥が深い。
おしまい!
はじめまして。
とても分かりやすくまとめられていて感心しました。
追い口の高さは日本では過去に遡ると受け口上端など、今よりずっと高く伐っていたようです。
これは鋸など切削スピードが遅い手工具ではできるだけ木が倒れ始めるタイミングを遅らせる目的が大きかったのだと思います。書かれているように繊維の剥離抵抗による効果です。
一方でチェンソーによる伐倒が主流になった現代でも忘れてはならない効果に木の「キックバック」現象を防止することがあります。
上受け口(コンベンショナルノッチ)の場合、追い口が低いとツルが切れた後、枝先が何らかの原因で押し返されたときに元が株から外れて後ろに滑ってくる可能性があります。
オープンフェイスノッチやフンボルトノッチでは株側の傾斜があるので起こりにくいですが、上方伐倒や谷跨ぎで倒す際には注意が必要です。
それと、繊維が流れているのは根曲がり部だけでなく、真っ直ぐ生えているように見える木でも根張り部分では思わぬ流れをしていることもあるので、判断は本当に難しいところですね。
コメントありがとうございます!
木のキックバック現象は経験したことありませんが、考えてみると恐ろしいですね。ご指摘ありがとうございます。「コンベンショナルノッチ」「フンボルトノッチ」という単語も初耳です。
根張り部分の繊維方向はあまり注意していませんでした。今後は考慮して伐倒してみます。
勉強になりました。