木の切り方 PR

【伐倒】禁止行為の「斜め切り」について書いてみる

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スギやヒノキの人工林にある、間伐された古い切り株を見ると、こんなのがあります。

木の断面が、やや高い位置で一直線に斜めに切られています。

これがいわゆる「斜め切り」という切り方をしたもの。

この切り方、危険なので林業の世界では禁止行為です、表向きは。

が、実際には間伐作業ではやらざるを得ないのが実情。とくに切り捨て間伐(切った木を山に放置する間伐のこと)では多用される切り方です。

タブーとされるリスクの高い斜め切りについて書いてみます。

厚生労働省の定める「労働安全衛生規則」第477条では、胸高直径が20cm以上の木は、受け口と追い口を作り、ツルを効かせて伐倒することが明記されています。仕事で伐木を行うときは、これを守るのが原則になります。

 

斜め切りの切り方

切り方の手順はいくつかあるかもしれませんが、僕が把握している切り方です。

まず幹に対してチェーンソーのガイドバーを真横から、斜めに角度をつけて切り込んでいきます。

木の左右どちらから切るかは重心によります。重心側から切ってしまうとガイドバーをはさまれる可能性大なので、事前の見極めが重要です。

以下、木の断面図で説明します。

①直径の半分程度(またはそれ以上)のところまで横方向に切り進みます。

②横方向が切り終わったら、切り残しを上から切っていきます。

 

③そのまま切り進むことで、幹を切り離し下方向へ滑らせます。

斜めに切り離すことで、幹が滑り落ちます。

 

まず横側を切っておく理由は、上側から切り離すときの切削スピードを上げることができ、ガイドバーがはさまれるリスクを少なくできます。

 

斜め切りが危険な理由

なぜ斜め切りが危険なのか?

ひとことでいえば「不確定要素が多くて確実なコントロールができない」からです。

その理由を分解して挙げてみます。

 

危険な理由①倒れる方向を完璧にはコントロールできない

斜め切りは基本的に、倒す方向のコントロールができません。

通常、木を切り倒すときは「追い口切り」などの切り方をします。

参照:林業でいちばん基本的な木の倒し方「追い口切り」と、木が倒れるしくみ

これは「ツル」と呼ばれる切り残し部分をつくって、そこを支点として木を確実にコントロールし、そして倒します。

斜め切りは、木の幹をいっきに完全に切り離す切り方です。

切り離したあとはすべて木の傾きと自重まかせになるため、倒れる方向の判断を誤ると、最悪の場合木に巻き込まれます。

まったくコントロールできないわけじゃありませんが、「100%確実に」とはいきません。

 

危険な理由②チェーンソーが木にはさまれる可能性あり

斜め切りは切り離した瞬間、チェーンソーのガイドバーの上に木が乗ります

狙いとしては「ガイドバーの上を滑り落ちて地面に着地させる」ことですが、完全に切り離す前に切り口が閉じてしまうとガイドバーをはさまれます

そのまま倒れるのが止まればいいですが、はさまれたせいで想定外の方向に倒れる可能性もあります。

危険なうえにチェーンソーの故障にもつながるので、斜め切りではさまれないためにも、木の重心の見極めは非常に重要です。重心側から切ってしまうとはさまれる可能性大。

切削途中に切り口を見ながら、そこが閉じているか開いているかの確認も同時にすべきです。

また、ガイドバーから滑り落ちるときにいっしょにチェーンソーも引っ張られて、ハンドルを持ったままだと自分ごと持っていかれる可能性もあります。

 

危険な理由③木の幹が足元ちかくに落ちてくる

幹を切り離すと、切り株ちかくにドスンッ!と幹が落ちてきます。

もちろん自分も近くにいるので、注意しないと足の上に切り離した幹が落ちてくる可能性も十分あります。

そのため切る前に

  • 切り離して滑らせる方向
  • 落ちてくる高さ
  • 滑り落ちてくる角度

をしっかり考慮して、その上で自分の立ち位置を決めないと危険です。

 

危険なのに斜め切りをするワケ=速い

危険なのになぜ斜め切りをするのか?

これもひとことでいえば、切り倒すのが圧倒的に速いから。これに尽きます。

これも分解して説明します。

速い理由①:樹冠の位置を低くできる

木を倒したい方向に十分な空間があるなら、追い口切りで難なく倒せます。

けれど多くの場合、切り倒したい木は周囲をほかの木に囲まれています。

↓ヒノキを見上げたときの樹冠

なので傾けたときに樹冠がほかの木にひっかかります(=かかり木)。

↓これがかかり木

斜め切りは根本でなくやや高い位置から切るというのがポイント。

かかり木は樹冠どうしが邪魔しあっているわけですが、高い位置から切り離して地面に着地すると、周囲の木とくらべて樹冠が低くなります。

その状態で傾いていけば、周囲の木の間を抜けやすくなります。うまくいけば一太刀で切り倒すことも可能。

 

速い理由②:切り離されているので根本をずらせる

もちろん斜め切りでもかかり木になることはあります。

かかり木の状態から樹冠を抜けさせる方法として、

  1. ロープや牽引具で伐倒方向に引っ張って、強引に枝の間を抜ける。
  2. フェリングレバーで幹を回転させて、枝をくぐり抜ける。
  3. 根本を完全に切り離して、テコなどをつかって根本を傾きの方向と逆側にずらす(=樹冠の位置も手前にずれて枝を抜ける)。

の主に3つの考え方があります(4つめもあって斜め切りの大抵はそれですがここでは省略)。

通常の追い口切りの場合、3を実行するにはツルを切り離さないといけません。これはチェーンソーが木にはさまれる可能性大なので、かなり慎重な作業が必要です。

対して斜め切りはすでに幹を切り離しているので、すぐに3の選択肢がとれます。

「3の選択肢が倒すのがもっとも速い」かは状況によりますが、木を上方(=山側)に傾けている場合、もっとも確実に倒せる方法です。

 

速い理由③:手数が少ない

斜め切りは基本的にチェーンソーのみで切り倒します。

クサビやロープやフェリングレバーなどほかの道具なしで、チェーンソーのみで伐倒が完結できます。

前述のかかり木の対応(3「根本をずらして樹冠をずらす方法」)には、そのへんにヒノキのぼうがあればテコが使えます。

これは非常に大きなメリットです。「道具を設置して使用する手間」「道具を持ち運ぶ手間」がないので、いっきに作業を省力化できます。

 

斜め切りするかの判断は小径木だけ

斜め切りは小径木(樹高が低く細い木)以外はやるべきではないと思います。

ただでさえコントロールできないのに、木の体積や重量が大きくなるとさらに予測が難しくなります。

感覚として、

  • 樹高12mくらいまで
  • 胸高直径15cmくらいまで

が限度かなと思います。それ以上の木は怖すぎてやってられません。

 

まとめ:推奨される伐倒方法ではない

いろいろ書きましたが、木を切り始めて2年程度の人間の見解です。

斜め切りをするかどうかは、

  • その木を切る目的
  • 木の樹種や林齢
  • 木の大きさや傾き
  • 木が生えている地形的な条件

などの要因を総合的に判断して、場合によっては有効な伐倒方法だと個人的に思いますが、安易に行うのは絶対にやめたほうがいいです。

木が倒れる仕組みを十分に理解して、木の重心の見極めやかかり木処理の経験をたくさん積んで、基本の追い口切りなどのチェーンソーワークが問題なくできるレベルでないと、斜め切りは非常に危険です。

普通に死ぬ可能性があります。けっして推奨される伐倒方法ではありません。

 

・・・

以上、斜め切りについて書いてみました(書いてしまいました)。

斜め切りにも深い技術や方法論はあるはずですが、そもそも禁止行為なので情報がほとんどありません(教えられねぇから見て覚えろ的なものだと思います)。

以下、検索でヒットする斜め切りについての記事です。

 

追記:参考書あり

参考までに、「伐木造材のチェーンソーワーク(初版のほう)」には斜め切りについて解説された章があります。おそらく斜め切りについてのノウハウを言語化している唯一の本です。

斜め切りで重要になってくる2手目の「折り倒し」についても解説されています。



 

おしまい!

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