こんにちは、がっちょです。
伐倒するときに蝶番の役割をしてくれるツル。伐倒方向を制御するためのいちばん重要な切り残し部分です。
このツルとなる部分を「どの位置につくるか?」を考えるのも、伐倒には重要です。
伐木のガイドラインなどではその基準が示されていますが、僕が伐倒した失敗例などをもとに、少し考えてみます。
ツル(蝶番)をどこにつくるか?
そもそもツルの位置は、主に「受け口の深さ」で決まります。
受け口の深さの基準は伐根直径の1/4程度とされています。
なぜ1/4なのか?という根拠はおそらく無くて、いろんな条件を加味した上でのバランスをとった目安だと思います。
ツルが大きいほど、丈夫な蝶番になる
ツルが大きいほどツルの強度は高くなり、丈夫な蝶番になってくれます。
も少し具体的にいうと、ツルの大きさには「長さ」と「幅」の2つあります。どちらをより大きくすべきでしょうか?
ツルの幅(基準は伐根直径の1/10)を大きくしすぎると、
- 木が裂け上がりやすくなる
- 重心の移動に大きな力が必要になる
などリスクや労力が増えます。
対してツルの「長さ」を大きく(=長く)する分には、ツルとしての不具合がとくに見当たりません。
なので「優先すべきはツルの長さ」だと考えていいと思います。
ツルの長さをより長くとるための方法は単純に2つあって、
- 木の幹は円形なので、受け口を深くする(横軸)
- 木は地面に近いほど太いので、切り倒す高さを低くする(縦軸)
なるべく「地面に近い高さ」で「深い受け口」をつくることで、より長いツルが出来上がります。
ツルが長ければ、何が丈夫になるのか?
ツルが長いと丈夫な蝶番になります。ではこの「丈夫さ」とは具体的に何でしょうか?
これにはいろんな表現があります。
- ツルの左右の安定が増す
- 伐倒方向を確実に制御してくれる
- 受け口側にきちんと閉じてくれる
僕としては「まぁそんなもんか」という感じであまり理解していませんでしたが、なるほどわかりやすいと思う本の解説を目にしました。
それは、ツルが長いほど横方向へのブレを制御するということ。
伐倒目標からズレないように横方向へのブレを制御する力の大きさは蝶番の長さで決まる。
Woodsman Workshop『チェーンソーで木を伐る』P51
「横方向へのブレを制御する」ことはつまり伐倒方向(本の説明ではよりに厳密に「伐倒目標」という表現)を確実にするもっとも大きな要素です。
木の重心が伐倒方向に対して左右どちらかに偏っている場合など、ツルの長さの重要性に気づかされました。
ツルを長くするには単純に、受け口を幹の1/2ほど切り込めば最大に近いツルの長さが出せます。
けれど伐倒はそう単純なものではありません。メリットがあればデメリットもあるし、そこまで切り込めないこともあります。
いろんな条件(重心・地形・幹の形や状態・伐倒方向、重心の移動手段など)を加味したうえで、条件内での最大のツルの長さが出せるように受け口をつくるのが、場合によってはとても重要になってきます。
偏重心の木(失敗例)
失敗例(追い口切り、重心の移動はクサビ、伐倒方向は斜め下方、伐根直径70cmくらい)。
伐倒方向に対して、重心が右に偏っている木を伐倒したものです。重心側に大きく振れてしまいました。
重心とは反対側のツル部分には、引っ張る力が強烈にかかります。そのため倒れていく過程でツルが保てず、方向が左右(重心のある方向)にぶれることがよくあります。
切り株をチェックしてみると、いろいろ反省点がありました。
ツルの長さを大きくする意味では2点。
- クサビを打ち込むスペースを考慮しつつ、ツル長さが最大近くとれる位置まで受け口を切り込めばよかった(写真黄破線)
- 根張りは不用意に切り取らず、ツルとして利用すればよかった(写真青破線)
ほかの反省点としては、
- 材としてとるわけじゃない&ガイドバーも両側から切れば中心まで届くサイズだったので、芯切り必要なかった
- 伐根直径(70cmくらい)に対して、初めから残すツル幅を少し切りすぎた
などなど。もっとツルの強度を落とさない選択をすべきでした。
中が腐っている木①(上手く倒れたけど良くない例)
失敗例(追いづる切り、重心移動はロープ牽引、伐倒方向は斜め上方、伐根直径35cmくらい)。
根元の一部がくぼんでいたり縦筋が入っている場合、だいたい中が腐っています。腐っている部分はツルとして使い物になりません。
ツルを残す位置として避けるべきですが、受け口断面からは中心にやや腐りが見える程度。受け口の深さ的にはいいくらいだったので、あまり気にせず伐倒しました。結果的には支障なく倒れてくれました。
切り株を見るとやはり腐り部分が確認できます。ツルの長さもくぼみで短くなってしまっているので、くぼみのある位置はやはり避けるべきだと思います。
中が腐っている木②(上手く倒れた例)
上手くいった例(追いづる切り、重心移動はロープ牽引、伐倒方向は斜め上方、伐根直径65cmくらい、林縁で片枝)。
中心が腐っているのが外見でわかりました。
片枝なので重心は完璧に谷側で、斜め上方への牽引伐倒。
前の失敗を踏まえつつ、ツルをどの位置にどれくらいの大きさでつくるか、というのでかなり迷いました。
地面に近いほど根張りが複雑で、中の腐り具合もよく分からなかったので、
- 受け口を高めの位置に設定
- ツル長さが最大近くとれそうな場所にチョークで補助線を引いてから受け口を作成
- 追い口を入れる前にロープでバックアップ
- ツル幅もかなり厚めに残す
という感じでやってみた結果、狙い通り倒れてくれました。
中身が大きく腐っていましたが、ツルの両端はしっかり生きていてくれました。ツルの位置はもう少し手前のほうがよかったかもしれません。
ツル幅については10cm程度にかなり厚く残しましたが、裂けることもありませんでした。ツル幅をどれくらい残すかは感覚でしかないので、まずはツルの長さを優先すべきだと思います。
受け口が浅すぎた木(失敗例)
失敗例。オノ目は入れていましたが、ツルの左側面が大きく裂け上がってしまいました。
原因の1つとしては「受け口が浅すぎる」ことかなと思います。だいたいですが1/5程度しかありません↓
受け口が浅いとなぜ裂けやすいか?という明確な根拠はありませんが、目にする説明の1つとして「ツルの折れ曲りと年輪の関係」があります。
ツルの折れ曲がる方向に対して、年輪の方向が斜めになるほど、抵抗が大きくなる、という感じ。
これは受け口が浅い(ツルの位置が手前)ほどその角度は大きくなります。
なので抵抗が大きいほど年輪にそって裂けやすくなったり、芯抜けしやすくなるのかもしれません。
素直にツルが折れ曲がってくれるためには、受け口はある程度の深さが必要になる、という見方ができます。
(芯抜けの観点からすると、心材が抜けやすく辺材は抜けにくいのは、このツルの折れ曲りと年輪の関係からなのかもしれません)
受け口が浅いとツルも短くなってしまうので、伐倒の精度や材の保護としてはまったく良いことがないです。
ツルの位置をあらかじめ決めるための方法
根元が腐っていたり、いびつな形の場合、あらかじめツルの両端の位置を決めておくのが無難だと、失敗例を通して実感しました。
ただ大径木の場合、目視だけではツルの両端がどこにくるのか、というのは非常にわかりにくいです。
やってみて役に立ったのが、受け口方向の確認道具でつくったコンパスっぽい形の棒(受け口棒)。
受け口作成前にこの棒を幹に当てれば、伐倒方向を指しながらツルの両端がどこくるのかを探れます。棒は長ければ長いほど見やすいです。
個人的には受け口方向の確認もいちばん視認しやすいガイドになってくれるので、あって損ない道具です。
まとめ:自分のツルを信用できるか
たとえば伐倒をするときに「絶対に倒してはダメな方向」がある場合、重心方向にクサビで倒すときも、起こし木でロープ牽引するときも、かなり緊張します。
緊張する中でいちばん思ったのは、自分のつくったツルは信用できるのか?ということでした。
丈夫なツルにするにはどうすればいいか、ツルをどこでつくればいいか、ということをごにょごにょと考えてみたので、過去の伐倒例をもとに記事にまとめてみました。
おしまい。