日本の田舎暮らしを描いた映画って、見ていてるだけで癒されます。
- 真夏の田んぼと蝉の声
- 人混みのいっさいない静かな空気
- 季節で変わっていく山の景色
とか、正直ストーリーなんてどうでもよくて、ぼーっと見ていられる感じがめっちゃ癒されます。
日本の田舎暮らしを描いた、個人的なおすすめ映画を3つ紹介します。
天然コケッコー:とにかく時間の流れがゆっくりな映画
全校生徒6人しかいない田舎の小中学校が舞台。
中学2年の右田そよ(夏帆)と、そこに東京から転校してきた大沢広海(岡田将生)。ふたりの淡い初恋を軸にすすむ、友達や家族との日常の物語。
オープニングのっけから、高く突き抜ける青空、見渡すがぎりの青々とした田んぼ、鳴り響く蝉の声…。「あーこれが田舎の夏だなー」という感じが炸裂します。
点々とある一軒家に住んでいるのは、じいちゃんばあちゃん、父ちゃん母ちゃん、そして子供たちの3世帯家族。
物語としてはとくにドラマチックなことがあるわけでもなく、淡々と、はたから見れば田舎のめっちゃ退屈な日常が描かれます。刺激的なものはなにもなくて、顔を合わせるのは昔から馴染みの人ばかり。
それでもそよと広海の距離は少しずつ縮まっていくし、彼ら彼女らは進級して、そして卒業を迎えていく。
本当に時間の流れはゆっくりしていますが、生徒たちは少しずつ成長して、変化していきます。そんな感じが見ていてとても心地いい。
物語の後半。そよは中学3年の修学旅行で広海の地元である東京にいきます。そこで目の当たりにする人にあふれた都会の光景と、彼女が暮らしてきた田舎との対比は強烈。そよが広海の東京のともだちと会ったときも、彼らはどこかそよの感覚とずれている。
もうすぐ消えてなくなるかもしれんと思やあ、ささいなことが急に輝いて見えてきてしまう。
中学卒業に向かって、そよが身近にある大切なものを再認識していく過程は、見ていて誰にでも心当たりがあると思います。
季節は夏から始まって、秋、冬、春と何気なく移ろっていく景色にもはっとさせられます。
そよと広海が田んぼの畔に座って話すシーンがあって、季節はたぶん秋から冬にかけての夕暮れ時。田舎の農閑期の田園風景が持っている、言いようのない物悲しさはけっこう胸が締め付けられます。
自分が子供の頃、ともだちと遊んで日が暮れて家に帰る夕暮れ時に、同じような景色を何度も見た気がします。
主演のふたり、当時10代の夏帆さんと岡田将生さんの初々しい姿も見どころです。
リトル・フォレスト:季節の食べ物がめちゃくちゃ美味そうな映画
田舎の四季の描き方がとにかく美しくて、季節の料理や食材がめちゃくちゃ美味そうな映画。
夏・秋・冬・春とそれぞれの季節パートで物語が進みます。
「天然コケッコー」が大家族の少女の日常なら、「リトル・フォレスト」は独りで田舎暮らしする女性の日常の話。
「小森」という東北地方の小さな集落で暮らすイチ子(橋本愛)。自給自足に近い暮らしで、それぞれの季節で作物を育て、収穫して、そして料理して食べる。
田舎の人にとっては当たり前かもしれないけれど、そうじゃない人からすればものすごく上質(特別?意識高い?エコ?)な暮らしに映ります。
例えば夏編。
- 薪ストーブでパンを焼く
- お米を発酵させて米サワー
- グミの木の実でジャム作り
- 畑で採れたにんじん、セロリ、ハーブなんかを使った自家製ウスターソース
- ハシバミの実を摘んでつぶして自家製ヌテラ(ナッツのペースト)
- 沢で採れたミズ(山菜)を刻んでご飯にかけるミズトロロ
- 露地栽培のトマトを水で冷やしてかぶりつく
ほとんどの食材は畑や田んぼや山で採れたもの。都会にいるとまずしない(できない)ような料理ばかりです。
なので食材の調達から食べるところまでがエンターテイメント感満載で、思わず見とれてしまいます。しかもそれが季節ごとに変わっていくので、ほんとうに見ていて飽きません。
同時に見ていて思うのは、田舎暮らしは家族の分業制だということ。仕事に加えて畑や家事など、家のことを一人でやるのはものすごく大変だし、はっきり言って効率が悪い。
都会にいるとやりたくないことはお金で外注できるけど、田舎だと自分でやらないといけない(例えば草刈りとか)。ラストの「春」編で倉庫作業の仕事中に吐露する、暮らしの大変さの愚痴は「そりゃそうだよな」と思います。
でも、それをイチ子はやっています。
言葉はあてにならないけれど、自分の体で感じたことなら信じられる。
なんでも自分でやってみる精神のイチ子はいろんな料理がつくれるし、いろんな作物を育てていて、季節で採れる山の幸も知っています。そういうのはお金を稼ぐスキルではないけれど、もっと根本的な「自分で生きる」ために必要な力だと思うし、そこには積み重ねた時間と、昔からの知恵が詰まっています。
そういう力を持っている人ってすごいし尊敬できる、と見ていて思います。
冬が終わってまずすることは、次の冬の食料をつくること。小森で暮らすというのは、その繰り返しだ。
ジャガイモの収穫作業をしながらイチ子がいうセリフです。作物を育てるというのは、右肩上がりの直線的な世界観ではなくて、円環のなかで巡って繰り返していくこと。
その中で、じゃあ自分は同じ場所にとどまらず、円じゃなく螺旋(らせん)のようにどうやって前に進むことができるのか?イチ子の葛藤と成長の話でもあります。
祖谷物語ーおくのひと:山間部の四季と空気感に触れる映画
舞台は徳島県の祖谷(いや)。
ひとり山奥に暮らすおじい(田中泯)に拾われて、そこで育てられ女子高生になった少女(武田梨奈)が主人公。
「リトル・フォレスト」は山に囲まれた盆地ですが、「祖谷物語」は急峻な山間部。同じ田舎でもまったく景色が違います。こっちのほうがより生活は厳しそうだけど、高地から見渡す山々の景色は抜群に美しいです。
春菜が生活するおじいの家は、めちゃくちゃ文明からかけはなれています。
- 囲炉裏で料理するんだ…
- 家まで道路とかないんだ…
- 水って川から汲んでくるんだ…
とか。現代では考えられないような生活水準です。物語の途中で春菜がもらう原付も「いつの時代のやつだよ 」ってくらい年代物です。
ほかには、
- 建設会社や工場
- 有害鳥獣の駆除
- 退屈して出ていく若者
- 造林された人工林の山々
など、山間部の田舎が持っている、独特の空気感がよく出てるなーと見ていて思います。
はっきり言わしてもらうけど、オレあんたみたいなヤツ嫌いじゃ。
ワシら田舎もん見下しとるみたいじゃけえ。都会は無理でも田舎ならって、思うとろが?
建設会社の息子のアキラが、都会から逃げてきて祖谷に流れ着いた工藤(大西信満)にいうセリフ。けっこう強烈です。
高校卒業をむかえる春菜は、祖谷に残るのか。近所のばあやの死やおじいの病気も相まって、選択を迫られます。
社会派的な要素もけっこうあるので、これは好き嫌いがわかれる作品だと思います。
まとめ:四季が物語そのもの
紹介した3つの映画には共通点があります。
- 春夏秋冬を描くこと
- 夏から始まり、春に終わること
- そこで生きていくか、出ていくかの葛藤を描くこと
強烈な季節の変化に人間模様を重ねていけば、どんな物語でも自然と1つの映画になりそうだと思います。
以上、個人的な日本の田舎暮らしの映画おすすめ3選でした。
おしまい。